富山地方裁判所 平成2年(ヨ)17号 判決 1990年6月05日
債権者 国
代理人 武田正彦 岡部眞美 池田浩人 西川義忠 宝田明芳 大場錦司 ほか七名
債務者 安村工業株式会社
主文
一 債務者は、富山市新保字大島割地先の神通川水系神通川の河川区域内において土石を採取したり、採取した土石を選別したり、又は、同土石(選別後の製品を含む。)を河川区域外へ搬出したりしてはならない。
二 債務者は、債権者に対し、この決定送達の日から二週間以内に、別紙物件目録記載の土石をもって、別紙図面一ないし七記載の斜線部分の掘削土地を埋め戻さなければならない。
三 債務者が右期間内に埋め戻しをしないときは、債権者は、富山地方裁判所執行官に債務者の費用で埋め戻しをさせることができる。
四 申請費用は、債務者の負担とする。
理由
第一被保全権利
債務者は、砂利採取業者であるが、平成元年一二月二〇日から同二年一月二〇日までの間、富山市新保字大島割地先の神通川水系神通川の河川区域内(別紙図面一ないし七記載の斜線部分。以下、「斜線部分の土地」という。)において、土石約二万二〇〇〇立方メートルを採取し、そのうち約八〇〇〇立方メートルを製品化し、残りの土石約一万四〇〇〇立方メートルを別紙図面一、四ないし七記載の網目部分の土地に堆積していること(以下、「本件採取行為等」という。)、河川管理者である建設大臣の委任を受けた建設省北陸地方建設局長は、平成二年二月一六日、債務者に対し、河川法七五条一項に基づき、土石の採取、採取した土石の選別及び河川区域外への搬出の中止と同年三月五日までに別紙物件目録記載の土石をもって斜線部分の土地を埋め戻すなどの原状回復を命じ、右命令書が同年二月一八日債務者に到達したことは当事者間に争いがなく、疎明資料及び審尋の結果によれば、債務者は、昭和四四年から昭和五四年三月までは砂利採取法一六条、二〇条に基づく認可(以下、単に「認可」という。)を受け、現在安村千廣(債務者の代表者)が他の共有者多数と共に持分を有している富山市新保字大島割一四二二番の二ほか九八筆の土地(合計七万一四八八・五二平方メートル)の青島と通称される河川区域内の土地(以下、「青島」という。)を安村から賃借し、土石を採取して来たが、昭和五四年四月からは河川法二五条、二七条一項、同法施行令一六条の八第一項二号の許可(以下、単に「許可」という。)又は認可を受けないで土石の採取を続け、債権者の河川管理員から多数回にわたって採取中止等の是正指示を受けたがこれを無視していたこと、青島は国有地と隣接していたところ、昭和六一年三月三一日、建設省担当者と安村千廣との間で官民境界の合意が成立し、その際の許可区域について善処する旨の合意に従い、債務者は、同年四月二四日及び同年九月三〇日砂利採取等の認可を受けたものの認可箇所からは殆ど採取しなかったこと、債務者が平成元年一二月二〇日ころ本件採取行為等に着手した斜線部分の土地は、大部分が国有地であることが一応認められ、右疎明事実と前記当事者間に争いがない事実によれば、債権者は債務者に対し右命令に基づく履行請求権を有するものということができる。
ところで、債権者は、本件において行政代執行法により自らその権利を実現できる余地があるのに、これによることなく右請求権を被保全権利とする本件仮処分申請に及んでいるが、民事上の手続によることが債務者に対し特に不利益を与えるものとはいえないし、行政代執行法もこれを許さない趣旨であるとは解されないから、本件申請は適法であると解すべきである。
なお、債務者は、土石の採取場所は民有地である青島内であって、賃借人として適法な権原がある旨主張するが、民有地からの採取についても許可又は認可が必要であり、債務者がこれを受けていない以上右主張は失当である。また、債務者は、許可又は認可を受けずに本件採取行為等を継続したことについて特段の事情があるから本件採取行為等は違法でなく、右命令は信義則に反し無効である旨主張するが、右特段の事情の存在を疎明するに足りる資料はなく、右命令に重大かつ明白な瑕疵があるとは認められない。
第二保全の必要性
疎明資料及び審尋の結果並びに本件審理の全趣旨によれば、一般に、河川は防災上適切な管理を必要とするところ、神通川は急流に属し、昭和五〇年以降河床が低下しており、無秩序な採石が行われると偏流や局所深掘等を惹起し破堤の危険性が増大すること、神通川においては毎年水量が増加すると斜線部分の土地は水没するに至り、斜線部分の埋め戻し工事が困難になること、債権者は、債務者の無許可採取に対し採取中止等の指示を与えてきたが、債務者は、これを無視し続けて来ており、債権者は、地元自治体、土石業協同組合、付近住民等らから適切な対応を迫られ、本件採取行為等について前記命令を発するとともに、所轄警察署に対する告発を行ったにもかかわらず、債務者は、その後も製品化や搬出等を続けていることが一応認められる。
右疎明事実によると、債務者の本件採取行為等は、違法なものというべきであり、債務者が今後青島付近での採石の許可又は認可を得られる見込みは殆どなく、早晩廃業せざるを得ない立場にあると推認できるから、債務者が自ら適切に埋め戻しを行うことは期待できず、これを放置すれば債権者が本案訴訟に勝訴しても執行が著しく困難になると認められ、本件採取行為等の禁止と埋め戻しの断行につき保全の必要性を肯認することができる。
よって、本件申請は、相当であるから、債権者に金五〇〇万円の保証を立てさせて、これを認容することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 井筒宏成 矢田廣高 手崎政人)
別紙当事者目録<略>
別紙物件目録<略>
別紙図面一ないし七<略>